手足口病を起こすエンテロウイルスの中でも特に重篤な症状を示すエンテロウイルス71型(EV71)に対する抗ウイルス薬・ワクチンは未だに開発されていない。その理由の一つは、EV71の細胞侵入機構(レセプター)が未知ということにあった。昨年度、EV71の白血球系細胞のレセプターとして、PSGL-1を同定し、PSGL-1アミノ末端領域にEV71が結合することを明らかにした。本年度はPSGL-1とEV71の結合機構を解明するために、PSGL-1側の結合領域をより詳細に解析した。 PSGL-1と、本来のリガンドであるP-selectinとの結合には、PSGL-1アミノ末端領域のチロシン硫酸化およびO型糖鎖付加が必要である。これらの修飾の、EV71との相互作用における役割を解明した。具体的には、PSGL-1を発現していない細胞(293T細胞)にPSGL-1変異体を発現させ、EV71との結合をフローサイトメトリーで検出した。 1)O型糖鎖付加部位に変異を導入し、糖鎖付加を阻害したPSGL-1変異体には、EV71が結合した。 2)チロシン硫酸化部位に変異を導入し、チロシン硫酸化を阻害したPSGL-1変異体には、EV71が結合しなかった。 3)チロシン硫酸化阻害剤存在下で培養した、野生型PSGL-1を発現する293T細胞には、EV71が結合しなかった。 4)チロシン硫酸化阻害剤存在下で培養したJurkat細胞では、EV71増殖が阻害された。 以上のように、PSGL-1とEV71の結合、およびPSGL-1依存性EV71増殖には、PSGL-1のチロシン硫酸化が必須であることを解明した。PSGL-1のチロシン硫酸化に依存するEV71感染機構の解析は、手足口病や中枢神経疾患等、EV71感染症の病原性発現の分子的基盤の解明に役立つことが期待される。
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