研究課題
新たなエイズワクチン戦略として、腸管においてHIV特異的細胞傷害性T細胞(CTL)を効率良く誘導することは重要であると考えられるが、その誘導機構については殆ど知られていない。本研究では、腸管粘膜における抗原特異的IgA産生の誘導に重要であるとされるパイエル板が、果たして腸管での抗原特異的CTLの誘導においても重要であるのかを明らかにするため、パイエル板への指向性の異なるサルモネラ菌を担体とし、サルモネラ菌に発現させたHIV-1 Gag抗原に対する腸管ならびに全身系免疫応答をマウスで解析することを試みた。まず、マウス小腸上皮層においてサルモネラ菌の侵入門戸であるM細胞の分布を解析した結果、M細胞マーカーであるフコシル化上皮細胞が小腸末端部に多く認められ、コレラトキシンや炎症誘導剤の投与によりこれらフコシル化上皮細胞が小腸上端部においても誘導されることを認めた。しかし、電子顕微鏡による観察の結果、これら誘導型フコシル化上皮細胞はM細胞とは異なり、吸収上皮細胞の形態を呈していること、また、サルモネラ菌の取り込み能も吸収上皮細胞と同様に認められないことから、サルモネラ菌の腸管(小腸)への侵入は従来の知見通り、M細胞あるいは上皮間樹状細胞を介することが確認された。続いて、HIV-1 Gagを発現させたパイエル板侵入性サルモネラ菌(AT-Gag)あるいはパイエル板非侵入性サルモネラ菌(ATK-Gag)をマウスに経口投与し、腸管ならびに全身系の抗原特異的CTLの誘導について解析した結果、AT-Gagを投与した場合ではHIV-1 Gag特異的CTLの誘導がパイエル板・小腸粘膜固有層・腸間膜リンパ節・脾臓において認められたのに対し、ATK-Gagを経口投与した場合ではいずれの組織においてもその誘導は殆ど認められなかった。以上の結果から、腸管粘膜における抗原特異的CTLの誘導にはパイエル板が重要な役割を担っていることが示唆された。
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Biochem.Biophys.Res.Commun.
巻: 404 ページ: 822-828