本研究は、MHCクラスI認識受容体PIR/LILRによる細胞傷害性T細胞(CTL)の活性調節方法を見出し、ガン、ウイルス感染、臓器移植などにおける新規治療法開発を目的としている。平成21年度の研究では、MHCクラスIとPIR-Bの結合に介在しCTLの活性を調節し得る因子の探索で、neurite outgrowth inhibitor 66 peptide (Nogo66)およびMyelin associated glycoprotein (MAG)に至り、これらのタンパク質がPIR-Bを介して細胞内に抑制シグナルを入力していると見られるデータを得た。Nogoは神経系タンパク質であり、これまで免疫系細胞との接点は全く知られていなかったことから、平成22年度の研究において、Nogoの免疫系における発現と機能について解析を行った。その結果、免疫系細胞においてもNogoの発現が認められ、なおかつ、Nogo欠損CTLは野生型CTLに比べて活性化が減弱することが判明した。すなわち、NogoはPIR-Bとの結合を介してCTLの活性制御に関与していると考えられ、PIR-Bを中心としたNogoおよびMHCクラスI両リガンドによるCTL調節システムの存在が伺える。Nogo66-FcおよびMAG-Fcタンパク質を用いることで、細胞内抑制シグナルの増強にともなう免疫寛容を誘導できる可能性があり、マウス個体を用いた移植実験において効果が認められれば、移植医療における新たな治療法につながることが期待できる。また、Nogo66/MAGとPIR-Bとの結合がMHCクラスIとPIR-Bとの結合を阻害し得るのであれば、CTL上のCD8分子とT細胞受容体がMHCクラスIを認識し易くなると考えられ、細胞傷害活性の増強につながることが期待できることから、癌またはウイルス感染などにおける新規治療法開発に向けた重要な知見となり得る。
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