当初の予想とは異なり、Mekk3^<IEC-KO>マウスはメンデルの法則に従って正常に生まれ、少なくとも生後1年間は腸炎を自然発症することは無かった。この結果は、マウス胎児繊維芽細胞とは異なり、MEKK3が腸管上皮細胞においてはTNFが惹起するNF-κBの活性に必須ではないことを示唆している。そこで本年度はまずこの仮説の検証を行った。野生型とMekk3^<IEC-KO>マウスにTNFを静脈投与し、腸管上皮細胞におけるアポトーシス亢進を比較・検討した。その結果、Mekk3^<IEC-KO>マウスにおいても野生型マウスと同様にTNF投与によるアポトーシス亢進が認められなかった。この結果はTNF刺激によりNF-κBが活性化することで抗アポトーシス反応が起きていることを意味する。また、両マウスをTNF欠損のバックグラウンドにして同様の実験を行ったが、同様の結果を得た。したがって、腸管上皮細胞におけるTNF刺激によるNF-κB活性化にはMEKK3は必須ではないことが明らかとなった。 次に、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)経口投与による急性大腸炎誘導モデルを採用し、腸炎発症時のMekk3^<IEC-KO>マウスの表現型を観察した。野生型マウス群と比較した場合、Mekk3^<IEC-KO>マウス群では、DSS投与5日目から大腸上皮層の脱落とリンパ球浸潤が認められ、顕著な体重減少を呈した。また、Mekk3^<IEC-KO>マウスではDSS投与3日目から上皮細胞のアポトーシスが亢進していた。これらの結果は、腸管上皮細胞の恒常性維持において、MEKK3が何らかの形で関与していることを示すものであり、そのメカニズムの解明に向けて現在も解析を継続中である。
|