研究代表者は、自己免疫疾患を自然発症するPD-1ノックアウトマウスと、疾患抵抗性の野生型マウスから分離したT細胞の、網羅的な発現遺伝子比較(マイクロアレイ解析)を行い、わずか190個の遺伝子発現の相違が、自己免疫寛容の一つの形態、T細胞アナジー(抗原経験後の不応答性)を起こす可能性に至った。特にその中でも、PD-1シグナルの存在によって強く抑制されていた、未知のITAG-1 (Immune-Tolerance Associated Gene1:仮名)遺伝子は、T細胞株において、この発現をsiRNAでノックダウンする実験により、TCR刺激後の細胞増殖を完全に抑制することを見出した。本年度は、このITAG1遺伝子のコンディショナルKOマウスを用い、モデル抗原であるSIYRYYGLペプチドに対する免疫反応を検討した。その結果、ITAG1は、初期のT細胞増殖には影響を及ぼさないものの、キラーT細胞への最終分化を制御している可能性を見出した。また、ITAG1分子に対するモノクローナル抗体を数ライン樹立し、これを用いて生化学的解析を行った。結果、ITAG1は、生体内で幅広く用いられているヒストン脱メチル化遺伝子と、核内で複合体を作っていることが分かった。今後は、この生化学的性質が、マウスの表現形とどのように結びつくかを明らかにすることが重要である。
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