人類を悩ませる、がんや自己免疫疾患は、T細胞による免疫を増強、あるいは減弱させることによって克服されると考えられ、T細胞免疫の制御機構を明らかにすることが重要である。 研究代表者は、自己免疫疾患を自然発症するPD-1ノックアウトマウスと、疾患抵抗性の野生型マウスから分離したT細胞の、網羅的な発現遺伝子比較(マイクロアレイ解析)を行い、PD-1シグナルの存在によって強く抑制されていた、未知のITAG-1 (Immune-Tolerance Associated Gene1:仮名)遺伝子を、このコンディショナルKOマウスを用い、解析している。今までの結果、ITAG1は、初期のT細胞活性化には影響を及ぼさないものの、キラーT細胞への最終分化を制御している可能性を見出した。また、前年度までに樹立したITAG1分子に対するモノクローナル抗体により、少なくとも10個のITAG1会合分子を同定した。引き続き、ITAG1と、その会合分子が、キラーT細胞を分化させる仕組みを解析中である。本研究の結果は、T細胞がどのように、自己、またはがん細胞に対す寛容を起こすかという基本的な疑問に答える第一歩である。 また、担がん患者や慢性ウイルス感染においてタイプIインターフェロンがPD-1の発現を刺激し、T細胞機能の抑制を起こして炎症を遷延化させることを見出し、論文報告した。この結果は、いまだ行われていないPD-1の阻害薬と、タイプIインターフェロン併用療法の有用性を強く示唆し、新規のがん治療法に結び付く成果である。
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