炎症に関連した発がんはヒトのがんの少なくとも15%以上を占めていると言われており、慢性炎症と発がんの関連は当該分野において極めて重要な課題となっている。本研究では、炎症関連発がんモデルマウスにおける免疫抑制受容体PD-1、近年自己免疫疾患自然発症モデルマウスの原因遺伝子として同定したAIDA、および体細胞突然変異導入因子AIDの役割を解析することにより、PD-1・AIDAおよびAIDによる炎症関連発がんの分子機構とその制御機構を解明することを目的とした。 平成22年度は、腸炎に伴い腸がんを発症することが報告されているIL-10欠損マウスを用いて解析を行ったが、腸がんの発生において、PD-1欠損による明らかな増悪は確認できなかった。また、PD-1とAIDAの協調的な役割を解析する目的で、C57BL/6およびNOD.H2b系統において両者を欠損したマウスを作製し、胃炎およびそれに伴う胃がん様病変発症の有無を検討したが、PD-1を単独で欠損させたマウスと比較して大きな差異は確認できなかった。 PD-1とAIDAの機能をより詳細に解析したところ、PD-1とAIDAが相加的にT細胞の抗原刺激による活性化を抑制すること、また両分子を欠損する場合でも制御性T細胞の機能には大きな異常が認められないことを明らかとした。さらに、両分子を欠損させたマウスでは、Th1型の免疫応答が増強される傾向にあることを明らかとしたことから、今後、Th1型の免疫応答により誘導される炎症に着目することが重要であると考えられた。
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