IL-10は抗炎症性サイトカインであり、炎症反応の抑制、免疫寛容の誘導に関与しており、その産生異常は炎症性疾患や自己免疫疾患を引き起こす。そのため、IL-10の産生制御機構を明らかにすることは、これら疾患の発症機序の解明や治療法開発に重要である。我々は最近、樹状細胞(DC)においてmTORがLPS刺激に伴うIL-10発現を正に制御していることを見出した。本研究ではその分子機構の解明を目的としており、マウスDCにおいてmTORによるIL-10発現制御がmTORの翻訳調節機構を介して行われているか否かを明らかにするとともに、mTORの下流でIL-10発現制御に関わる分子の同定を試みた。 mTORは下流分子のp70S6KやeIF4Eを介して翻訳を正に制御している。siRNA法や阻害剤を用いてこれら分子の機能を抑制したDCにおけるLPS刺激に伴うIL-10の遺伝子発現を解析したところ、eIF4EがIL-10遺伝子の発現を正に制御していることを見出した。また、LPS刺激前のeIF4E阻害剤処理の時間を長くすると、よりIL-10遺伝子発現が抑制されること、mTOR阻害剤とeIF4E阻害剤は共にIL-10の遺伝子発現を抑制するがIL-6の遺伝子発現には影響を与えないことが明らかとなった。以上のことから、mTORはeIF4Eを介して、DCにおいて恒常的に合成されているがIL-6遺伝子発現に関与しない分子の翻訳調節を行い、IL-10遺伝子発現を制御していると考えられた。このような標的分子の候補の一つである転写因子Sp1について、mTOR阻害剤やeIF4E阻害剤処理したDCの核内タンパク質の量をWestern blot法で調べたが、違いは見られなかった。一方、mTOR-eIF4Eシグナルが作用するIL-10遺伝子の転写制御領域を探るため、IL-10プロモーター遺伝子(-98/-936bp)を6つに分けたプローブを用いてゲルシフトアッセイを行ったが、mTOR阻害剤とeIF4E阻害剤の両方に感受性を示す領域は見つからなかった。IL-10遺伝子の転写制御には、プロモーター領域以外の保存された非翻訳領域の関与が幾つか報告されていることから、mTORはその領域を介してIL-10遺伝子発現を制御していると予想された。
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