院内感染は医療の質や安全にかかわる重要な要因の一つであるばかりでなく、院内感染の発生に伴う経済的影響も問題となるが、我が国ではごく一部しか検討が行われていない。また救急・集中治療領域は大量の医療資源が投入されるにも関わらず、中にはその有効性や経済性が十分評価されないままに行われている治療が存在している可能性がある。この研究では院内感染を合併しICUにおいて治療が行われた患者の医療費のうち、抗菌薬や免疫グロブリン製剤など感染症の治療に要するコスト、および感染に合併する病態として播種性血管内凝固症候群に要するコストを検討した。 その結果、院内感染合併患者において感染症や合併病態の治療に使用された薬剤費は1入院当たり約44.7万円であり、当該症例における医療費総額の9.0%(DPCで計算。出来高計算では8.2%)を占めていた。しかしながらその割合は1.2%から26.5%(出来高では1.2%から17。3%)まで広く分布しており、この要因としては感染の重症度の他、原疾患に対する処置(手術等)の有無、グロブリン製剤投与やDIC合併の有無などにより影響されていると考えられた。また、これらの薬剤費が、院内感染に伴って付加的に発生したと考えられる医療費に占める割合は20.1%であり、院内感染による経済的影響は、直接投与される薬剤費もさることながら在院日数の延長による入院費の増加の影響が大きいと考えられた。 感染症の治療においては発症早期の治療開始が予後を改善することが知られている。今回の結果によれば、早期からの十分な治療開始は、それに要する薬剤費の増加分を考慮しても、在院日数やICU在室日数の短縮による入院費の低下が期待でき、院内感染による経済的影響を全体として軽減する可能性があることが示唆された。
|