院内感染は医療の質や安全にかかわる重要な要因の一つであるばかりでなく、医療経済への影響も問題となるが、我が国ではごく一部しか検討が行われていない。また救急・集中治療領域は大量の医療資源が投入される分野ではあるが、中にはその有効性や経済性に関する検討が行われていない治療が存在している可能性がある。この研究では院内感染による敗血症および播種性血管内凝固症候群を合併し集中治療室において治療が行われた患者について、診断群分類(DPC)による診療報酬支払い制度のデータを利用して、それらの治療に要するコストを検討した。 同一DPCコードで平均的な経過をたどった患者と比較すると、対象患者では在院日数が平均68.8日延長していた。医療費は370万円増加し、医療費全体(599万円)の半分以上を占めていた。増加した医療費のうち、抗菌薬の占める割合は1.9%であったのに対して、グロブリン製剤、アンチトロンビン製剤、トロンボモデュリン製剤の3つの薬剤費の占める割合は19.1%、特定集中治療室管理科の占める割合は15.3%であった。 院内感染に関連したコストののうち薬剤費の占める割合は比較的少ないが、特定の薬剤のコストの割合は大きく、これらの薬剤の費用対効果に関しては今後検討が必要である。一方で在院日数の延長および集中治療室への入室がコストの多くを占めており、感染対策および感染症の早期治療の重要性が改めて示唆された。
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