医学、医療の研究はこれまで科学性・客観性が重視されてきたが、臨床での医師患者関係を考える上で、医師の感情は診療に大きな影響を与えている。近年、医療者が抱く様々な感情は、感情労働という概念で研究されてきている。本研究の目的は、内科医師が行っている感情労働の具体的な内容を、その医師を取り巻く患者、看護師、その他様々な医療環境のコンテクストのなかで分析し、医師特有の感情労働とバーンアウトにどのような関連、プロセスがあるのかを考察することである。 平成21年度は、研究の趣旨を説明し同意が得られた内科医17名を対象としたインタビュー調査を行った。インタビューはプライバシーに配慮し、個室で行われた。インタビュー時間は約30-110分であった。インタビューのテーマは、臨床業務の中で患者やその他のスタッフ、職場環境、現代の医療制度、医学などについてどのような感情を抱いているか、これまでに忘れられない後悔の経験はあるか、あったとしたらそれはどのような出来事で、それに対する思いはどういったものか、などである。また、面接を行った医師のうち数名に関しては、実際の診療現場を見学し、フィールドノーツをつけた。この際、患者の匿名性に配慮した。 データは質的に分析をおこなった。医師が自らの感情を管理する方法は、その医師がそれまで体験してきた患者との関わりや、周囲の状況、同僚との関わりによって影響をうけていることが明らかとなった。そのことを考慮しつつ、感情労働に関する医師特有の傾向や、バーンアウトとの関連を中心に分析を行った。
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