精神科急性期入院医療では、患者の保護と休息の確保のため療養環境が重視され、個室の整備が求められている。2002年に診療報酬上に「精神科救急入院料」が新設されて以降、救急病棟を中心に個室率の高い病棟がっくられるようになり、なかには全個室の病棟もある。病棟で入院生活を送るなか、個室は患者にとって静かで休息のとれるプライベートな空間でコミュニケーションは病室の外に存在する。精神科医療において他者との関わりは治療に欠かせない要素であり、そのための場は患者にとって重要で、個室の整備とともに病室の外の空間にも配慮が必要だといえる。そこで本研究は、全個室病棟を有する医療施設を事例に選定し、病棟内の室空間の利用実態を把握するとともに、個室率の高い病棟に必要な共用空間のあり方について検討することを目的とした。 本年度は、(1)病棟概要と管理・運用に関するヒアリング、(2)入院患者の室空間利用に関する行動観察、(3)看護スタッフの室空間利用に関する行動観察の3つの調査を実施し分析を行った。その結果、患者は日中の約3割の時間をデイルームで過ごしており、患者同士の交流とピア・サポートが自然発生していた。また看護スタッフは個室内での患者個々との関わりは手短とし、デイルームでの働きかけに時間を費やしていた。スタッフのデイルームでの働きかけは、患者が個室から出てくるきっかけとなっていた。デイルームは全ての患者が集まる広さや家具が整備されていなかったが、限られた資源に対する患者の選択行動を観察できるとともに、場を共有する者同士のほどよい凝集性が居心地のよさにつながっていると考えられた。患者の状態に合わせた段階的な行動範囲を設定するだけでなく、利用できる機会や習慣を日常生活上に取り入れることで患者の動機づけや多様な可能性に繋がっていた。
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