本研究の目的は、保険者の所有する診療報酬請求明細書(レセプト)により患者の医療機関受診行動を記述し、複数施設の受診が施設単位での標準診療実施率による診療評価結果にどれほど影響を与えるのか検討することにある。本年度は、研究に使用するための診療評価指標の同定、及び、そのデータ源の提供保険者を決定する作業を行った。診療評価指標の候補としては、わが国で作成された診療の質指標として、平成18年~20年度厚生労働省研究班「がん対策における管理評価指標群の策定とその計測システムの確立に関する研究」の作成した、胃・大腸・乳腺・肺・肝臓の指標を検討し、乳癌、大腸癌、肺癌の術後補助療法(放射線療法、化学療法)の適切な実施の指標が、一定の検討材料となり得ると考えられた。また、海外のものでは、米国糖尿病学会(American Diabetes Association)の作成する(Diabetes Quality Improvement Project)や、米国リウマチ学会(American College of Rheumatology)の作成する診療の質指標が利用可能であると考えられた。データ源については、企業健保と契約し診療報酬請求書解析業務を行う会社からデータ提供の合意を得た。さらに、市町村国民健康保険組合についても地域の異なる2つの組合からデータ提供の可能性について回答をもらい、そのうち1組合に関しては、既に市町村と契約したデータ管理会社から、各疾患の症例数についての算出を得た。これらの作業や担当者と意見交換をする中で、患者がDPC参加病院に入院すると保険者からはデータが欠けてしまい診療内容が不明になること、一部の診療所では手書きのレセプトが存在してその電子化が非常に困難であることなどの問題点も明らかになり、その限界を認識した上で次年度の研究を進めることとした。
|