研究概要 |
本年度の検討では、発達障害における衝動的行動の発現機構の解明を目的として、発達障害モデルラットの衝動的行動の発見に関わる分子の探索を中心に実施した。 発達障害のモデルラットとして注意欠如多動性障害(ADHD)のモデル動物である幼若SHRSP/Ezo(Ezo)ならびにSHR亜系の中で遺伝的背景が類似しているSRRSP/Izm(Izm)とSHRSP/Ngsk(Ngsk)を用いて検討した。幼若Ezoの遺伝的対照動物であるWKY/Ezoと比較した場合、オープンフィールド試験においてIzm、Ngsk、Ezoのいずれも多動性が観察された。しかしながら、注意機能障害(Y字迷路試験)および衝動的行動(高架式十字迷路試験)は、Izm、Ngskでは観察されず、Ezoに特異的な行動特性であることが明らかとなった.これらの結果をもとに、網羅的一塩基遺伝子多型(SNP)解析の結果を利用してIzmおよびNgskとは異なるEzoに特異的な多型領域を検索したところ、Brown Norway系統をり基準とした21,032遺伝子のSNPの中から266遺伝子が検出され、さらにnocallとして検出されたSNPを除くと137遺伝子に絞り込まれた。これらは第7、9およびX染色体上にEzo特異的なSNPの集積が認められた。特に第7染色体ではプレキシンやシンタキシンなどの細胞異動制御や伝達物質開口放出に、第9染色体ではエフリン受容体やヒストン脱アセチル化酵素などの神経回路形成やエピジェネティックス機構に、X染色体ではプロトカドヘリンなどの細胞間接着因子に関わるタンパク質群がそれぞれ該当するSNPのBLAST検索によって同定された。 以上のことから、ADHDモデルラットである幼若Ezoが示す衝動的行動の発現に関わる遺伝的背景には、第7、9およびX染色体上に存在するSNPとの関連性ならびに神経細胞の発達・形成に関わる分子群の関与が示唆された。
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