H21年度実績報告書にも記載したが、hotspot mutantのgain of function (GOF)機構に関与する候補遺伝子の抽出作業は極めて困難であるという結論に至り、H22年度は、hotspot mutantではなく既に報告されているGOF mutant (S121F mutant:野生型p53よりも強力なアポトーシス誘導能を持つ変異体)におけるメカニズム解析をメインテーマとした。まず、S121Fを用いた網羅的遺伝子発現解析をSaos-2細胞株で行った。既知のp53標的遺伝子の中から、アポトーシス、細胞周期停止、オートファジー、p53分解への関与が報告されている遺伝子群を抽出し比較検討した結果、野生型p53に対しS121Fで最も大きな発現の亢進を認めたDRAM(damage-regulated autophagy modulator)が候補遺伝子として同定された。DRAMはオートファジーを誘導するライソゾーム蛋白をコードしており、p53はDRAM依存性にオートファジーを誘導することが報告されている。 DRAMがp53依存性アポトーシス誘導能に与える影響を調べるため、FACS解析を行った結果、DRAM過剰発現によって野生型p53のアポトーシス誘導能が有意に増強することがSaos-2細胞株とSF126細胞株において明らかとなった。p53依存性アポトーシス誘導には内在性DRAMが重要であることは既に報告されているが、本研究では、DRAMの過剰発現によってp53依存性アポトーシス誘導がより増強されることを新たに見出し、DRAMがp53依存性アポトーシス誘導の強化に重要な標的遺伝子であることを明らかにした。またS121FのGOF機構として、DRAMの著明な発現誘導が一つの要因である可能性を提示した。
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