臨床で使用される薬物のほとんどは、妊婦に投与した場合の胎児に対する安全性が保証されていない。胎児へのリスクを評価する一つの指標として薬物の胎児移行性がある。本研究では、ヒト胎盤より単離したトロホブラスト細胞を用い、薬物の胎児移行性を定量的に評価するためのin vitro評価系を確立することを目指した。昨年度の研究において、トロホブラスト細胞をマルチウェルディッシュ上に初代培養することで融合・多核化(シンシチオ化)させた系を構築し、アニオン性薬物である非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs;サリチル酸、ケトプロフェン、イブプロフェン)の取り込みには、輸送担体が関与すること、モノカルボン酸トランスポーター(MCTs)がその少なくとも一部に関与していることを明らかにした。本年度は、トランスウェル上に単層培養を試み、生体をより反映した形態における輸送プロファイルを詳細に解析することを目的とした。MAPK阻害薬およびEGFを用いて培養することで、TEER値は培養日数とともに上昇し、NSAIDsの透過クリアランスはマンニトールの透過クリアランスより大きく、輸送に方向性が認められたことから、トロホブラスト細胞を用いた経細胞輸送実験系を確立することができた。構築した経細胞輸送実験系を用い、NSAIDsがトロホブラスト細胞を透過する過程を速度論的に解析し、in vitroにおける経細胞パラメータを算出した。得られたパラメータは、過去にin situ胎盤灌流実験により求めた経胎盤動態パラメータと類似していた。本研究で構築したトロホブラスト細胞を用いた経細胞輸送実験系は、薬物の経胎盤輸送をより簡便に予測できるツールとなる可能性が示唆された。なお、本研究は本研究科及び胎盤試料の供給先(東京大学医学部)の倫理審査委員会の承認を受けておこなった。
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