カルシウム過剰蓄積による神経細胞およびグリア細胞の変性やグリア細胞へのカルシウム流入による増殖・悪性因子放出等の病態形成過程におけるTRPVサブファミリー分子の中心的な役割を明らかにし、難治性中枢神経変性疾患に対する有効性の高い根本的治療薬の薬物標的としての評価を行うことを目的とし様々な検討を行った結果、以下の知見を得た。1、脳内においても末梢と同様に発現が認められるTRPV1のノックアウトマウスを用いて脳虚血傷害における病態生理学的役割について検討した。一過性中大脳動脈閉塞を施したところ、野生型と比較してノックアウトマウスでは虚血負荷48時間後における神経学的症状の増悪および梗塞巣の形成が有意に抑制された。TRPV1選択的阻害薬であるカプサゼピンを投与したところ、虚血負荷48時間後における神経学的症状の増悪および梗塞巣の形成が野生型マウスでは有意に抑制されたが、TRPV1ノックアウトマウスでは有意な影響は与えなかった。以前のin vitroにおける予備的な結果も含めるとTRPV1は脳内炎症やpH低下などの脳虚血傷害の病態に関連した事象により特異的に活性化され、神経細胞へのカルシウムの過剰な流入が脳虚血傷害の引き金になっていると想定される。2、TRPV1はミクログリアに発現していることが報告されているため、活性化ミクログリアにおける一酸化窒素(NO)やTNFαの遊離に対する選択的刺激薬カプサイシンの作用について検討したが、有意な影響は観察されなかった。3、TRPV4アゴニストである4αPDDを適用することによりLPS誘発ミクログリア活性化が抑制されることが明らかになった。その機序にはTRPV4開口によるミクログリアに脱分極が関与することが示唆された。詳細な機序については引き続き検討中である。
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