エルロチニブやスニチニブなどの経口分子標的治療薬は、非小細胞肺がんや腎細胞がんに対して用いられているが、間質性肺疾患などの致死的な有害事象や血液毒性などの重篤な副作用が多いために、個々の患者に適した投与量の個別化が必要とされる。本研究では、経口分子標的治療薬の適正使用に関するデータの蓄積を目的に、透析症例を含めて、エルロチニブやスニチニブの血中濃度モニタリングを実施し、薬物動態特性並びに安全性を評価した。まず、3名の透析施行中の非小細胞肺がん患者におけるエルロチニブ血中濃度プロファイルを非透析患者と比較した結果、薬物蓄積性は認められず、非透析患者の血中濃度と同程度であることが初めて明らかとなった。さらに、透析患者において重篤な副作用は認められなかったことから、エルロチニブは透析施行時においても安全に使用できることが示唆された。次に我々は、スニチニブ服用後早期に重篤な副作用を発現した腎細胞がん患者を対象に、副作用発現の原因を究明する目的で、薬物動態・遺伝子多型解析を実施した。その結果、本症例は薬物排出ポンプであるABCG2/BCRP遺伝子変異(C421A)のホモ型であることが判明し、薬物曝露量(AUC)は野生型またはヘテロ型と比べて約2倍高いことが明らかとなった。さらに、ABCG2一過性発現HEK293細胞を用いて、スニチニブの輸送実験を行った結果、細胞内蓄積量はコントロール細胞と比較して有意に減少し、また細胞内から有意に高いスニチニブの排出が確認された。以上の結果から、スニチニブはABCG2の基質であることが示され、機能消失と関連するABCG2 C421A変異をホモで保有する場合、スニチニブの吸収が増大し、重篤な副作用が発現することが示唆された。 研究計画初年度では、経口分子標的抗がん薬の体内動態及び副作用関連因子に関する有用な情報を得ることができた。次年度以降、実施計画を進め研究目標の早期達成を目指す。
|