スーパーオキシドや過酸化水素などの活性酸素種は、生体内において感染微生物を死滅させる善玉としての作用と、脂質過酸化などにより生体にダメージを与える悪玉としての作用を持つ。さらに活性酸素種が細胞内シグナル伝達分子としてはたらくことも明らかとなっている。申請者は神経障害を引き起こすクリオキノール(キノホルム)がスーパーオキシド産生酵素NOX4/NADPHオキシダーゼの発現をmRNAレベルで抑制することを見出した。クリオキノールの有害作用にNOX4由来の活性酸素種の減少が関与することを想定し、その生理的意義を検討した。クリオキノールはヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞の増殖を抑制した。細胞増殖を抑制する濃度において、クリオキノールはNOX4のみでなくその会合成分であるp22phoxとPoldip2の発現もmRNAレベルで抑制した。またクリオキノールは膜画分におけるスーパーオキシドの産生を抑制した。SH-SY5Y細胞にNOX4を標的とするsiRNAを導入してRNA干渉を行ったところ、NOX4の発現抑制により細胞増殖は抑制された。以上のことから、NOX4が産生するスーパーオキシドは細胞の増殖に関与しており、クリオキノールの細胞毒性は、NOX4/NADPHオキシダーゼの発現抑制とそれに伴うスーパーオキシドの産生低下を介して引き起こされることが明らかとなった。さらにNOX4遺伝子を用いてレポーターアッセイを行ったところ、NOX4の基本転写に関与するGC-boxとは別に、クリオキノールによる発現抑制に関与する配列が5'非翻訳領域内に存在した。このことから、クリオキノールによるNOX4の発現抑制は、mRNAの安定性の調節により行われることが示唆された。
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