HIV-1はウイルスプロテアーゼ内部にアミノ酸置換を起こしプロテアーゼ阻害剤(PI)に対する耐性を獲得するが、しばしば酵素活性の減弱に伴いウイルス増殖能が低下する。一方で、基質であるGagウイルス構造タンパク質にもアミノ酸置換を起こし、変異したプロテアーゼによる切断を促進するなどして酵素活性の減弱を代償することが知られている。現在臨床で使用されているamprenavir(APV)に対する高度耐性HIV-1変異株を試験管内で誘導し塩基酸配列を解析すると、プロテアーゼ領域に6個、Gag領域にも6個のアミノ酸置換が同定された。APV耐性変異をプロテアーゼ領域に導入した感染性組換えHIV-1クローンに同定したGag変異を導入するとHIV-1の増殖能が改善した。またGag変異のみを有する感染性組換えHIV-1クローンを作製し、再度APV耐性を試験管内で誘導すると、APVに対する耐性の獲得が促進したが、別のPIであるsaquinavirやindinavirでは影響せず、nelfinavir(NFV)に対しては逆に遅延した。以上は、PIの曝露によって起こるGag領域の変異のあるものはPI耐性獲得に伴う増殖能の低下を改善するだけではなく、HIV-1のPIに対する耐性獲得に大きく関与することを示唆しており、またNFV耐性関連変異がAPVに対する感受性を増大させることを併せると、APVとNFVによる治療レジメンが良好な抗ウイルス効果を発揮する可能性があることが示唆された。
|