研究概要 |
HIV-1はウイルスプロテアーゼ(PR)内部にアミノ酸置換を起こしプロテアーゼ阻害剤(PI)に対する耐性を獲得するが、基質であるGagウイルス構造タンパク質にもアミノ酸置換を起こし、耐性変異を獲得したPRによるGagの切断を促進するなどして酵素活性の減弱によるウイルス増殖能の低下を改善する。またこのようなPI耐性獲得に伴うGag変異が、HIV-1のPIに対する耐性獲得そのものにも影響することをすでに明らかにしている(M. Aoki et al.J Virol,83 : 3059-3068,2009)。本研究では、PIの一つであるnelfenavir(NFV)を含む多剤併用療法中のHIV-1感染者において、GagのPRによる切断部位近傍に7アミノ酸から成る挿入変異を有するHIV-1を同定した。挿入変異を持つHIV-1は持たないものと混在して存在したが、NFV耐性関連変異が獲得されると共に優勢になった。この挿入変異を野生型PRの感染性HIV-1クローンに導入するとHIV-1の増殖能は減弱したが、NFV耐性関連変異を含むクローンに導入すると増大した。またNFV以外のPIであるindinavirおよびamprinavir耐性変異を有するクローンの増殖能を同様に改善したが、lopinavir耐性クローンではむしろ低下した。以上は、挿入変異がPRの基質切断部位へのアプローチに影響していることが考えられ、この基質へのアプローチはPRのアミノ酸変異によって変化する可能性がある。またin vivoでもGag領域の変異がPIに対する耐性獲得に影響している可能性を示唆している。このようなGag変異の更なる詳細な解析は、HIV感染者の治療開始時および変更時の薬剤の選択に有益な情報をもたらすものと思われる。
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