研究概要 |
Bartonella henselaeは猫ひっかき病(cat scratch disease : CSD)の原因菌である。本菌は患者からの分離が非常に困難であるため、本邦ではネコ由来分離株に関して16S rRNA遺伝子I型が主であるとする報告のみで、その他の遺伝学的背景は十分に明らかでない。本研究の目的は、ヒトならびにネコ由来B. henselaeの遺伝子学的解析により、わが国のCSDの実態を解明することである。本年度はmultilocus sequence typing (MLST)による分子系統解析を行い、遺伝子型の分布について検討を行った。全国から集められたCSD患者の各種臨床材料由来B. henselae DNA 24例とネコ由来B. henselae 31株の計55例を対象に、8種類のハウスキーピング遺伝子(16S rRNA, batR, ftSZ, gltA, groEL, nlpD, ribC, rpoB)についてMLSTを行った結果、3つの異なるsequence type (ST)に分類できた。CSD患者由来24例はすべてST-1であったのに対し、ネコ由来分離株では、31株中28株(90.3%)がST-1、2株(6.5%)がST-6、残る1株(3.2%)ではrpoBに新たな変異があったため、新規のST-15とした。これまでに報告されている14のSTとST-15について分子系統樹を作製したところ、ST-15はST-1に非常に近縁であった。以上の結果より、MLST型別解析により、わが国ではST-1が主な流行型であることが示された。また、他の地域(国)と比べ、MLSTに用いられるハウスキーピング遺伝子の塩基配列は、わが国のB. henselaeに高度に保存されていることも同時に明らかとなった。
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