研究概要 |
前年度の検討結果、キノンの中でも1,4-naphthoquinoneが強い発光を与えたことから、これにより抗体を標識することにした。最初に、抗アルブミン抗体を用いて、これに直接キノンを導入する手法について検討した。アミノ基に対する反応基としてカルボニルクロリド基を有する1,4-naphthoquinone誘導体をアルカリ条件下で抗体とインキュベートすることにより、抗体のアミノ基へとキノンを導入した。未反応のキノンを除去した後で、キノン標識抗体にルミノール及び還元剤ジチオスレイトールを添加したところ、長時間持続する強い発光が観察された。一方、キノンによる処理を行っていない抗体では顕著な発光は観察されなかった。したがって還元剤の添加により、抗体に結合したキノンの酸化還元サイクルが誘起され、活性酸素が発生することにより発光が生じたと考えられた。この結果より、抗体に導入した状態でもキノンは発光を示すことが明らかとなった。今後は調製したキノン標識抗体について、その発光特性や安定性を精査していく予定である。 さらに、より簡便にキノンを抗体に導入するために、アビジン-ビオチン複合体形成に基づいてキノンを抗体に導入可能なツールとしてキノン標識ビオチンの合成を試みた。キノン標識ビオチンは側鎖にアミノ基を有する1,4-naphthoquinone誘導体とビオチンとをアミド結合形成触媒の存在下で撹拌することで合成した。生成したキノン標識ビオチンを精製後、その溶液にルミノール及びジチオスレイトールを添加したところ、強い発光が観察されたことからビオチンへのキノン標識は達成できたと考えられた。しかしながら、質量分析による構造解析では予想した構造とは異なる化合物の生成が示唆された。今後、より詳細な構造解析を行う必要があると考えられた。
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