老人性全身性アミロイドーシス(SSA)は、野生型トランスサイレチンを前駆蛋白としたアミロイドが主に心臓、肺などに沈着しておこる全身性疾患である。主な臨床症状としては心不全、手根管症候群などが知られている。欧米での剖検による検討では、80歳以上の25%前後にSSAが認められることが報告されているが、日本での検討はまだない。 そこで、熊本大学医学部附属病院で、剖検を施行された40歳以上の連続173例を対象とし、日本人における老人性アミロイドーシスの頻度を検討した。臨床症状または遺伝子検査により診断された家族性アミロイドポリニューロパチーは除外した。パラフィン固定された心筋をコンゴーレッド染色、抗トランスサイレチン抗体による免疫染色を施行した。コンゴーレッド染色で173例中15例(8.9%)にアミロイド沈着を認めた。そのうち6例は抗トランスサイレチン抗体による免疫染色が陽性であり、SSAと診断した。SSAの年代別頻度は、70代:62人中2例(3%)、80代:20人中3例(15%)、90代以上:5人中1例(20%)と、年齢が上がるにつれ増加した。また69歳以下ではSSAは認めなかった。6例の死因は間質性肺炎2例、筋委縮性側索硬化症1例、胃癌1例、心不全1例であった。これらのうち生前にSSAが疑われたのは心不全で死亡した1例のみであった。80歳以上の日本人高齢者におけるSSAの頻度は16%であり、欧米で報告されているよりも低率であった。しかし生前にSSAの診断がなされていない症例が多く、高齢者においてはSSAの存在を常に念頭に置いておく必要があり、今後生前に非侵襲的に診断できる方法を検討する必要があるとおもわれる。
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