EGF受容体(EGFR)はチロシンキナーゼ活性を持つ膜貫通型蛋白で、EGF、TGFαやneuregulinなどのリガンドが結合すると、Ras、PI3キナーゼやAktの活性化が起こる。結果的に、細胞増殖が促進されるため、EGFRの過剰発現は、多くの癌種で予後不良因子となっている。最近我々は、EGFRの発現レベルと、リン酸化Aktを指標とするPI3キナーゼ/Akt経路の活性化との間に、逆相関関係があることを見出した。本研究では、PI3キナーゼ/Akt経路によるEGFRの発現調節機構を解明し、癌治療の効果増強への応用を目指す。 本年度は、大腸癌細胞株CaCo2、Colo320、DLD-1、HCT116、HT29、LS180、SW480およびSW620を用い、血清飢餓後にEGF刺激し、Akt経路の活性化とEGFRの発現をウエスタンブロッティングで解析した。その結果、HCT116、LS180およびSW480で、EGF刺激によりAkt経路が活性化し、EGFRの発現が低下した。また、PI3キナーゼ活性をLY294002で阻害すると、EGFRの発現量が増加した。さらに、EGFRの発現が、PI3キナーゼ/Akt経路の活性化以外のシグナルによる調節も受けているか否かを検討するため、HCT116、HT29およびSW480を、インスリン、VEGFあるいはHGFで刺激したが、変化はみられなかった。 すなわち、PI3キナーゼの活性化により、EGFRの発現が低下することが示唆された。また、EGFRの低下はEGF刺激に特異的であり、インスリン、VEGFあるいはHGFの影響を受けないことも明らかとなった。今後は、PI3キナーゼ下流にあるEGFR発現調節分子の同定と、癌治療の効果増強への応用を目指す。
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