研究概要 |
白血病は分子標的療法,造血幹細胞移植が確立された現在においても5年生存率が20~40%程度の予後不良疾患である。本疾患の発症機序・白血病化のメカニズムを解明することは白血病患者の予後向上にとって重要な課題である。 代表的な発症機序として顆粒球増殖・分化シグナル(G-CSFシグナル)の異常があげられる。G-CSFレセプター(G-CSFR)自体の異常,下流の増殖・分化シグナル,転写因子の異常である。血液細胞は基本的に増殖後,分化に移行すると考えられる。細胞の分化が抑制され増殖のみにシグナルが転じた時,急性白血病が発症する。しかし以前の報告から分かるように,増殖・分化シグナルの住み分けは極めて不明瞭であり増殖から分化に転じる移行起点も明らかではない。 Sykは分子量72キロダルトンの非レセプター型チロシンキナーゼであり血液細胞を含む多くの細胞に発現している。血液領域においては,小児急性リンパ性白血病細胞におけるSyk発現欠損から白血病化との関連が指摘されている。今回我々は顆粒球細胞の白血病化におけるSykの役割について注目した。まず,32D(マウス白血病細胞株)を用いて好中球分化モデルを作製した。32D-SykshRNA, 32D-SykshRNA/G-CSFR株(Syk発現低下株)を作製したところ,Syk発現低下と顆粒球の分化に関連はなかった。しかし,32D-Syk-SH2ドメイン強発現株(Sykのキナーゼドメインを削除しSH2ドメインのみを発現させた株)では分化の抑制を認めた。以上の事実から,SHドメインと分化抑制の関連が示唆された。次に,Syk発現抑制株にSH2ドメインを強制発現させた変異株を作製した。SH2ドメイン強発現による腫瘍化の機序を明らかにするため更なる変異株を作製中である。今後,SH2の標的遺伝子は何であるのか。既知の増殖・分化経路との関係も明らかにしたい。
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