申請者らは、内臓脂肪型肥満に伴う高遊離脂肪酸血症と心血管イベントの発症リスクとの関係に着目して検討を行ってきた。その結果、遊離脂肪酸の構成成分である飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の過剰な細胞内流入が心筋細胞における脂肪酸代謝の亢進、グルコース代謝の低下というエネルギー代謝バランスの乱れを引き起こし、ミトコンドリアにおける酸化ストレスの増加から心筋障害をきたすことを明らかにした。また、過剰な飽和脂肪酸の細胞内流入が、脂質中間代謝産物であるセラミドやジアシルグリセロールの増加を引き起こし、アポトーシスによる細胞傷害を誘導することも明らかにした。 また、申請者らはこの飽和脂肪酸の作用に拮抗的に作用する酵素として、Stearoyl-coA desaturase-1(SCD1)に着目した。SCD1は細胞内に取り込まれた飽和脂肪酸を一価不飽和脂肪酸に変換する酵素で、肥満者の骨格筋で高度に発現しており、肥満に伴うインスリン抵抗性に深く関わることが示唆されている。申請者らは、培養心筋細胞にSCD1を過剰発現させておくと、飽和脂肪酸による脂肪酸代謝の亢進、グルコース代謝の低下を改善することで、心筋細胞の傷害が抑制されることを明らかにした。また、SCD1の過剰発現によって、飽和脂肪酸添加によるセラミドやジアシルグリセロールの増加を抑制することで、アポトーシスに対して保護的に作用することも明らかにした。また、RNAiを用いてSCD1をノックダウンすると、これら飽和脂肪酸の作用が増強されることから、この作用はSCD1依存的であることも明らかとなった。 以上の結果から、肥満や糖尿病の際に見られる高遊離脂肪酸血症に対し、SCD1は心血管系において保護的に作用していることが示唆され、心血管系疾患の予防および治療の重要なターゲットとなることが示唆された。
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