本研究は核内レセプターCARの遺伝子多型と様々な疾患との関連を日本人の集団において解析したフェノームスキャン研究である。ヒトCAR遺伝子上に存在する新規レアバリアントおよびマイナーアレル頻度1%以上の多型を計10種類選択し、日本人高齢者連続剖検例1536検体についてMelting curve analysis法により多型検出を行った。今回の集団では、我々が他集団で新規に発見した4種類のレアバリアントは検出されなかった。検出できた多型の判定成功率は98%以上で、Hardy-WeinbergテストのP値は0.05以上あり平衡が保持されていた。判定できた多型結果と臨床及び病理情報等を統合した統計解析用データセットを用いて、まず悪性腫瘍と代謝性疾患とのフェノームスキャン解析を行った。全ての統計解析は、SAS統計解析ソフトウェアーver.9.13を使用した。その結果、エクソン5に存在するrs2307424(P180P)多型のT-アレル保持者は造血器系悪性腫瘍ならびに肺癌のリスクが低い傾向にあった。一方この多型のC-アレル保持者は高脂血症のリスクが低い傾向にあった。さらに、イントロン3に位置するrs6686001多型のA-アレル保持者は動脈瘤のリスクが高いことがわかった。これらの関連は疾患リスク因子等で調整後も統計学的有意な関連が残っていた。また最近の論文で、rs2502815多型のアレルをホモで持つと骨密度が高いという報告が、日本人の閉経後女性集団を用いた研究で明らかになった。そこでrs2502815多型と骨疾患との関連の有無を、我々の集団で調べたが、統計学的に有意な結果は得られなかった。本研究はヒトCAR遺伝子多型と疾患の関連を検討する初めての研究である。そしてヒトCAR遺伝子多型が造血器系悪性腫瘍や高脂血症および動脈瘤と統計学的関連があったという結果は、世界初のエビデンスである。
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