研究概要 |
本研究の目的は,ビタミン様の生理活性を有する水溶性キノン化合物ピロロキノリンキノン(PQQ)の骨代謝に及ぼす影響を明らかにすることである.本年度は,マウス骨芽前駆細胞(MC3T3-E1株)を用い,骨芽細胞分化誘導の前後におけるPQQ添加の影響を調べた.骨芽細胞分化の前後において,PQQは10^<-6>mol/Lの濃度まで細胞毒性を示さず,細胞増殖に及ぼす影響も認められなかった.この濃度は,生体内の各種組織におけるPQQレベル(10^<-9>~10^<-8>mol/L)よりも高い濃度であることから,通常の生活においてPQQが骨形成に悪影響を及ぼすとは考え難い.また,分化誘導後14日間PQQ添加培地で培養し,骨芽細胞の石灰化骨形成能をvon Kossa染色およびAlizarin red S染色により評価したところ,PQQ添加濃度依存的な石灰化骨形成の抑制が確認された.一方で,同様に14日間培養した骨芽細胞を回収し,細胞内抽出液のアルカリホスファターゼ(ALP)活性を確認したところ,PQQ添加群において用量依存的なALP活性の低下が確認されたもののいずれの実験群においても対照群に比べて高いALP活性を示した.ALP活性は骨代謝における骨形成マーカーの一つとされており,石灰化骨形成との相関が得られなかった要因についてさらなる研究の進展が望まれる.また,各実験群間でPQQ添加によりどのような遺伝子が発現変動しているのかを網羅的に解析するため,同14日間培養した各細胞実験群からtotal RNAを抽出・精製し,Agilent SurePrint G3 Mouse Gene Expression Array 8x60Kを用いてコントロールに対する各実験群間の発現変動遺伝子について検討を行った.その結果,PQQ添加群において特徴的な発現変動遺伝子が抽出できた.これらの結果を総括すると,高濃度PQQの存在は,骨芽細胞の生存率を低下させ細胞増殖を抑制するとともに,石灰化骨形成を用量依存的に抑制するが,PQQの存在そのものは骨形成促進に関わるALP活性を増大させる働きを有することがわかった.
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