過度の飲酒は乳がんのリスクを高めることが明らかとなっているが、その機序については十分に解明されていない。そこでラットを用いた長期飲酒(日本酒)実験を実施し、遺伝子発現量の変化に着目することで、その機序の解明を試みた。その結果、脂肪組織においてRae (retinoic acid early inducible)遺伝子の転写量が大幅に増加することを明らかにした。RAEは正常細胞では発現が見られないが、細胞のがん化、ウイルス感染などにより発現が増加する膜タンパク質である。細胞膜上に発現したRAEはNKG2Dレセプターを持つNK細胞、一部のCD8^+T細胞、γδT細胞によって認識され細胞障害活性を誘導する。RAEの発現は免疫系細胞によるがん細胞の認識と除去に寄与するが、正常組織における過剰な発現はそれらの働きを阻害すると考えられる。特に乳腺組織近傍には脂肪組織が豊富に存在することから、免疫系細胞による腫瘍への抵抗性を低下させ、乳がんの増殖を許す可能性が考えられた。この飲酒によるRAEの発現がエタノールを介したものであることを確認するために、培養脂肪細胞(3T3-F442A)をエタノールに暴露したところ、Rae遺伝子の転写量増加が認められた。このことはエタノールによってRAEの発現が誘導されること、そして短期的なエタノール摂取によっても脂肪組織でRAEが発現する可能性を示唆している。
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