カドミウムによる発癌の分子メカニズムについては不明な点が多い。我々は、in vitroにおいてマウス胚性幹細胞にカドミウム曝露をすることにより、MMP9、MMP13mRNAの発現上昇が起こることを見出した。MMPは癌の転移および血管新生において重要な役割を果たすと考えられており、カドミウムが発癌を促進する遺伝子発現に関与する可能性が考えられた。次にカドミウム曝露によるMMP発現における細胞内シグナル伝達メカニズムを解明するため、ERK、JNK、p38の3つの主要なサブファミリーからなるMAPKの関与について、ノックアウト法を用いて検討した。JNKの活性化因子であるSEK1、MMK7両方を同時に欠失し、JNKシグナルを完全に遮断したES細胞にカドミウムを曝露したところ、MMP9、MMP13両遺伝子の発現誘導が著しく抑えられることを見出した。よって両遺伝子の発現誘導においてJNKシグナルが重要な役割を果たすことが考えられた。 以上のようにin vitroにおいてカドミウム曝露によりMMP発現が上昇することを示したが、次にin vivoのカドミウム誘導性発癌においてもMMPの発現上昇が見られるかを調べることを目的に、前段階として既存のマウス腫瘍形成モデルを用いて検討した。B16メラノーマ細胞をマウスに移植し、皮下に腫瘍を形成させた。次に腫瘍よりMMP産生細胞の単離を試みた。腫瘍形成時、腫瘍と共に存在するマクロファージがMMPを産生し、血管新生や転移を促進することで腫瘍細胞の増殖を助ける可能性が近年報告されている。そこで腫瘍に存在するマクロファージが主なMMP産生細胞である可能性を考え、マクロファージのマーカーであるCD11bの抗体を固定化した磁気ビーズを用いて、腫瘍マクロファージを単離した。現在このマクロファージにおけるMMPの発現を検討中である。
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