本研究の目的は、労働者に対して職業性ストレス調査と各種生化学的および生理学的バイオマーカーを測定し、両者の関連性を検討することにより職業性ストレスによる心血管疾患発症リスク増加の機序を明らかにすることである。某2箇所の職場において職業性簡易ストレス調査および心血管リスクを反映する各種生化学的バイオマーカーおよび生理学的マーカーとして上腕動脈の動脈硬化指標を測定し、職業性ストレスとの関連性を検討した。その結果、N末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)と仕事の裁量度との間に有意な負の相関関係を認め、さらに仕事による心身症状のうち、「怒りを感じる」「内心腹立たしい」「仕事が手に付かない」状態と上腕動脈硬化指標の一つであるVolume elastic modulus(VE)との間に有意な相関関係を認めた。これらの結果より、職業性ストレスに伴って心臓ストレスの上昇や上腕動脈の血管特性の悪化が引き起こされる可能性が示唆された。また、NT-proBNPや上腕動脈VEの測定が職業性ストレスにともなう心血管リスクを反映するマーカーとなりうる可能性も示された。
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