メカノケミカル処理は、工業分野で新素材として応用可能なナノ粒子を生成できることから、石綿の無害化・再資源化処理への応用が注目されている。しかし、これまでにメカノケミカル処理生成物の生体影響に関する国際的な評価はなされていない。そこで、クリソタイルをメカノケミカル処理して生成されたナノ粒子について、吸入試験よりも簡便で感受性が高いとされるラット腹腔内投与による中皮腫発がん実験を実施した。クリソタイルのメカノケミカル処理ナノ粒子(一次粒子径約50nm:CH-M)と短繊維クリソタイル(陽性対照:CH)をラットに腹腔内一回投与後12ヶ月までの中皮腫発生の有無を経過観察した。観察期間中に定期的に採血および採尿を行い、発がん過程において重要な酸化ストレスに関して、フリーラジカル自動分析装置(FRAS4)を用いた血清の酸化ストレス度(d-ROMs:derivative of reactive oxygen metabolites)および抗酸化力(BAP:Biological antioxidant potential)の測定、高速液体クロマトグラフィー電気化学的検出器(HPLC-ECD)法による尿中8-hydroxy-2'-deoxyguanosine(8-OHdG)の測定を行った。CH群の中皮腫発生率は60%であったが、CH-M群では中皮腫発生を認めなかった。酸化ストレス度に関して、CH-M群ではCH群に比較して軽減されていた。一方、抗酸化力に関して、CH-M群ではCH群に比較して長期間維持されていた。また、酸化的DNA損傷に関して、CH-M群ではCH群と異なり尿中8-OHdGの経時的な上昇を認めなかった。以上のことから、クリソタイルメカノケミカル処理ナノ粒子は腹腔内投与後の酸化ストレス反応がクリソタイルに比較して軽減された結果、中皮腫の発生が抑制された可能性が示唆された。
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