研究概要 |
本研究は脂肪細胞の肥大化および過形成に血管新生が関係しているという仮説を基に、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)と肥満との関連を調査した。 福岡県下のA健康保健組合の男性労働者約686名を対象者とし、血中VEGF濃度を測定した。まず、対象者をやせ群(BMI<18.5)、普通体重群(18.5≦BMI<25)、肥満(I)以上群(BMI≧25)に分け、VEGF濃度を比較したところ、やせ群が最も低く(平均VEGF濃度538.1pg/mL)、肥満(I)以上群が最も高かった(平均VEGF濃度669.5pg/mL)。また、VEGF濃度は、白血球数と正の相関、アディポサイトカインの1つであるアディポネクチンと負の関連が認められた。 次に対象者を肥満群と非肥満群に、VEGF濃度を四分位に分け、ロジスティック回帰分析を用い、オッズ比を算出した。VEGF濃度がもっとも低い群に比べて、最も高い群は、肥満のリスクが約1.7倍有意に高いことが認められた(OR 1.74, 95%CI 1.06-2.85)。さらに、年齢、飲酒習慣、喫煙習慣、運動習慣で補正しても、その関係は有意なままであった。また、肥満関連疾患として高血圧症とVEGF濃度との関連を検討したが、高血圧症とVEGF濃度には有意な関連は認められなかった。 本研究より、肥満とVEGF濃度との関連が認められた。先行研究より肥満と血管新生の関係は報告されているが、メカニズムは明らかとなっておらず、疫学調査もなされていない。本研究より疫学的に肥満のメカニズムにおけるVEGFの役割を明らかとなれば、血管新生阻害剤が肥満症の有効な予防薬となりうる可能性を示すことができる。
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