研究概要 |
ダイオキシンの毒性は転写因子Aryl hydrocarbon receptor (AhR)が仲介し、ダイオキシンの毒性とCYP1A1をはじめとするAhR依存的な遺伝子発現はよく対応することが知られている。ダイオキシンの毒性発現には臓器特異性が存在するが、そのメカニズムはいまだ不明な点が多い。本研究では、ダイオキシン類の中でも強い毒性をもつ2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD)を用い、低用量のTCDD(2μg/kg)を曝露したマウスの各臓器において、CYP1A1遺伝子発現調節メカチズムを解明することを目的としている。今年度は、転写抑制性の因子を中心に、CYP1A1遺伝子発現調節メカニズムの肝臓と脾臓における臓器特異性について検討した。 当研究室のこれまでの研究により、等量のTCDDで誘導きれるCYP1A1量は、肝臓でイ脾臓よりも約12倍多いことが明らかになっている。この誘導量の違いについて、転写抑制性の各種因子の発現について検討した。そり結果、HDAC1、HDAC4おきびAhR repressorの発現量が脾臓で高いことがわかつた。ChIP assayの結果から、AhRのCYP1A1エンハンサー領域への結合量が、肝臓と比較して脾臓で極端に低いことが明らかになった。そこで、CYP1A1エンハンサー領域のヒストン修飾に着目して検討をおこなったところ、もともとの活性化型ヒストン修飾(AcH3、AcH4)のレベルが肝臓で高いことがわかった。また、TCDD曝露すると、肝臓では抑制型ヒストン修飾(H3Kgme2、H3K27me3)レベルが減少するのに対し、脾臓では抑制型ヒストン修飾(H3K27me3)のベルが増加する傾向にあることがわかった。さらに脾臓では、TCDD曝露によりCYP1A1エンハンサー領域へのHP1αの結合が有意に増加し、AhR依存的にCYP1A1エンハンサー領域がヘテロクロマチン化される可能性も示唆された。以上の結果から、ダイオキシンの毒性の臓器特異性には、エピジェネティクス作用が関与することが示唆された。
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