1年目に実施された、フィリピン・コミュニティでの新型インフルエンザおよび呼吸器感染症に関連する受療行動を含んだ知識・意識・行動(KAP)調査の結果を分析し、途上国における地域レベルのKAPに影響を及ぼす因子を明示する(研究初年度4月に新型インフルエンザが発生したため病院ベース研究との比較は次年度に持ち越された)。調査においては、家庭訪問啓発活動(新型インフルエンザ公衆衛生対策・受療行動に関する教育)を行った地域2か所、行っていない地域4か所で、1785の有効回答を得、その年齢は9歳から93歳の幅で(中央値43歳)、男女比は3:7、教育レベルは73%が高校レベル以下であり、年収は95%が約10万円未満、居住する世帯平均は約5人で、約半数の世帯に5歳未満の子供が1人以上おり、1つのベッドルームに対する家族の人数の割合は約3人であった。1297名(73%)がパンデミック(H1N1)を認識しており、都会である州都が最も良い成績で、啓発活動のあった僻地、啓発活動のなかった僻地と続き、それぞれの間で統計的に有意な差が見られた。受療行動および公衆衛生的対策のKAP成績も、啓発活動地域が有意に高かった。KAP成績に正に相関する要素として、「高い教育・女性・高い収入・新型インフルエンザのリスクのいる世帯・テレビを情報源」の5つのファクターが示された。啓発活動地域において、K-A-P間で強く正に相関しており、啓発活動が行動変容につながったことが示唆された。これらより、途上国での新型インフルエンザ等の新興感染症の出現に対して、遠隔地域で、特に男性・低い教育レベル・低い収入・テレビのない家・リスクのいる世帯が、啓発活動の優先されるターゲットグループとなることが示唆された。結果はフィリピン保健省地域事務所で呼吸器感染症の罹患・死亡率低減に活用されている。また、国際ワークショップ(フィリピン)・国際フォーラム(ベトナム)で発表され、現在学術論文投稿準備中である。
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