本研究は、エジプト農村地域で流行する住血吸虫症について、女性の健康問題という視点でフィールド調査を行ない、住血吸虫症対策を効果的に実施するために必要な要因について、社会疫学的分析を行なうものである。 エジプトでは、学童への治療薬集団投与を中心とする国家プログラムが導入され、近年、本症の罹患率が低下している。しかし、就学率の低い女児や、保健サービスへのアクセスが制限されている成人女性に対する対策は十分とはいえない。また、生殖器住血吸虫症など女性特有の病態も明らかになり、本症を女性の健康問題として捉える必要がある。本研究では化エジプト農村地域における保健医療サービスの提供状況および住民に対する面接調査を通して、本症に関する健康教育が、どのように女性の行動変容に寄与しているか、また、女性を対象とした感染症対策を阻害もしくは促進する社会的要因は何かについて分析を行なう。 平成21年度は、エジプト中部のアシュート県で調査を実施した。21年8月に、現地の研究協力機関とともに調査対象となる村落2箇所を決定し、村の保健医療サービスに関する情報収集を行なった。また、11月には、約3週間にわたり、成人女性160名に対する面接調査を行なった。住血吸虫症の症状や予防に関する知識、日常生活における感染のリスク行動(用水路での家事等)の有無などについて聴取した。住血吸虫症の既往歴については、24名(15%)の女性が、過去に罹患したことがあると回答したが、全員が50歳以上であり、近年の住血吸虫症対策によって、新規(若年者)の感染が抑えられていることが示唆された。その一方で、年配の女性と比較して、若年者における同症の症状や感染経路に関する知識が低い傾向があった。罹患率の低下を受けて化同症に関する健康教育が行なわれなくなっていることが一因と思われた。現在、収集したデータを分析中である。
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