本研究では、10年以上実施されている地域在住中高年者を対象とした長期縦断疫学調査の蓄積データを活用し、日常生活でのアミノ酸摂取量や質を把握し、これが抑うつに及ぼす影響を横断的また縦断的に解明する事を目的とした。 今年度の行った研究の実績報告は以下の3点である。 (1)我が国には、食事からのアミノ酸摂取量を測定するための成分表が整備されていない。そこで昨年度は食品の置き換え法等により、アミノ酸組成表の整備を行ったが、本年度はさらに精度を高めるため、置き換え法を用いても補充できなかった食品の中で、タンパク質含有量が多く、栄養調査での出現頻度の高い11種の食品についてアミノ酸含有量の分析を行った。これにより、食事から摂取されるたんぱく質の92.8%をアミノ酸に置き換えることに成功した。我が国においてこのように整備されたアミノ酸成分表は他にはなく、日本における一般住民の詳細なアミノ酸摂取量を算出することができるようになったことは大変意義がある。 (2)18種類のアミノ酸摂取量と抑うつとの関連について横断的な解析を行った。男性ではアスパラギン酸、ヒスチジン、スレオニンの摂取量が多いと抑うつ発症のオッズ比が有意に低下する事が分かった。女性ではバリンの多量摂取で抑うつ発症のオッズ比が有意に低下した。 (3)食事が2年後の抑うつに及ぼす影響を検討した縦断的解析の結果では、男性のみで、スレオニンヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、グリシンの多量摂取で抑うつ発症のオッズ比が有意に低下した。女性では有意な関連を示したアミノ酸は見られなかった。 これらのアミノ酸摂取と抑うつに関するメカニズムの報告は我々の知る限りない。また、今回の検討では、これまでに抑うつとの関連が報告されている芳香族アミノ酸やグルタミン酸は有意な関連を示さなかった。アミノ酸と抑うつとの関連については、さらなる検討が必要である。
|