本研究では、無作為抽出された地域住民の大規模集団を対象とした「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」の10年以上にわたるデータを基に、個々のアミノ酸摂取量やそのバランスが抑うつにどのような影響を及ぼすか明らかにすることを目的に行った。本年度の研究成果を以下に記す。 1.一昨年11月に新たに発表された「日本食品標準成分表2010」および「アミノ酸成分表2010」に準拠したアミノ酸成分表データベース「NILS食品アミノ酸組成表2010」を構築し、たんぱく質摂取量の95.3%をアミノ酸摂取量に置き換えることを可能とした。 2.この「NILS食品アミノ酸組成表2010」を用い、中高年者のアミノ酸摂取量が抑うつに及ぼす影響について8年間の縦断解析を行った。その結果、男性ではアルギニン、セリン、アスパラギン酸、総アミノ酸摂取量の1標準偏差の増加により、抑うつ有りとなるオッズ比は0.66~0.69倍であり、抑うつのリスクが有意に低下した。女性では抑うつに対して有意な関連を示したアミノ酸はなかった。 本研究により、一般地域住民のたんぱく質摂取量の95%以上のアミノ酸組成を示す事が可能な食品アミノ酸成分表が国内で初めて完成した。これは、アミノ酸の栄養疫学の基礎データとして大きな成果であろう。また、一般地域住民の食生活を反映したデータから中高年男性の抑うつと有意な関連のあるアミノ酸が見出せたこと、さらに、従来、報告のある芳香族アミノ酸との関連ではなく、非必須アミノ酸の関与の可能性を初めて報告した。これは、中高年者のうつ病の増加が問題点としてあげられている現代日本にとって重要な知見である可能性がある。
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