研究概要 |
法医学実務において薬物関連死が疑われる症例では、死因判断に血中薬物濃度が用いられるが、必ずしも血中薬物濃度が全身状態を表していないことから死因判断に苦慮する場合が少なくない。当教室では、脂肪肝が抗精神病薬のHaloperidol投与に対し脆弱であることを明らかにしているが、薬物代謝変動因子について詳細は不明のままである。本研究では、血中濃度および臓器濃度双方から全身状態を把握し、臓器障害度による薬物中毒の診断基準の構築を目的とし、脂肪肝モデルラットにおけるHaloperidol投与時の血中濃度、薬物臓器分布、薬物代謝能について検討を行った。既報に従い脂肪肝モデルラットを作成した。haloperidolを投与後、経時的に血液と臓器を採取し、それぞれの薬物濃度を測定した。さらに肝ミクロソームの代謝酵素発現量および代謝酵素活性を評価し、また肝代謝酵素のmRNA発現量を測定した。血中薬物濃度測定より、脂肪肝時のhaloperidol代謝遅延を示唆する薬物動態パラメータを得た。臓器中薬物濃度は、治療量投与時と比較した中毒量投与時における臓器中薬物濃度の増加率は脂肪肝では有意に低いことを明らかにした。脂肪肝時の血流量は減少が認められ、投薬による影響は検討中である。代謝酵素活性については、脂肪肝時にcyn3a活性が有意に低下し、既報と一致する結果であった。代謝酵素発現量および他の代謝酵素や投薬時の酵素活性変動について検討中である。脂肪肝時の肝薬物代謝酵素のmRNA発現量は、cyp2d1, 2d2は投薬による遺伝子発現変動に差はなく、カルボニル還元酵素、ugtla1, 2b1, 2b12は遺伝子発現が減少することを明らかにした。このことは、既報のcyp群の変動とは異なることから、病態時における薬物治療時の投薬設計で、病態および投与量を考慮する際の有用な知見である。
|