近年のわが国における中毒事故の発生状況を見ると、「医薬品」による自殺事例の大幅な増加が認められる。このような状況の中、検屍や法医解剖時における薬物服用のスクリーニングは「トライエージ([○!R]」等の免疫学的手法を応用した市販の検出キットに依存している現状がある。しかし、市販のキットで検出可能な薬物は乱用薬物や一部の向精神薬に限られており、その他多くの薬物は簡易なスクリーニング法を持たない。そこで我々は、抗体作製にかかる時間の短縮が可能で、多種多様な薬物に対する抗体の同時作製が容易なファージライブラリー法を利用した抗薬物抗体の作製を計画した。本年度は抗うつ薬ラルボキサミンに対する抗体産生ハイブリドーマを出発材料として、抗フルボキサミン一本鎖抗体の調製を計画した。 【抗ラルボキサミン一本鎖抗体の調製】 既に調製済みの抗うつ薬ラルボキサミンに対する抗体産生ハイブリドーマからRNAを抽出し、RT-PCRによって抗体可変領域DNAの調製を行った。まずwild-typeの一本鎖抗体(scFv)を調製するため、コンピテントセルにカルシウム法にて可変領域DNAを導入して形質転換を行った。ついで、これをLB寒天培地で増殖させ、形成したコロニーの遺伝子配列をDNAシーケンサーにて確認した。現在、可変領域であるV_L、V_Hドメイン遺伝子の確定を行っており、確定次第、大腸菌に導入してscFv抗体タンパクを回収・精製する予定である。また、調製したscFv抗体タンパクの抗原認識性を確認した後、V_H、V_Lドメインの塩基配列に対してError-prone PCRを行って塩基配列のランダムな組換えをし、これをファージに組み込んでファージライブラリーを調製していく。
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