研究概要 |
本研究の目的は,覚醒剤・向精神薬乱用者の中枢神経系および内分泌系組織について,神経変性疾患時に上昇することが知られているアポリポプロテイン(Apo)の発現動態を解析することにある.研究上半期は,視床下部・頭頂葉・海馬・中脳・下垂体・副腎を対象として,抗ヒトApo B,Apo E_4およびApo J抗体を用いて免疫染色し,死因別陽性細胞率の変化について検討した.免疫組織化学検査の結果,視床下部や海馬における,Apo BおよびApo E_4は,熱中症において高値を示したが,中毒死では他群間に比較して差は認められなかった.中脳では,Apo Bのみが熱中症で高値を示し,中毒死に特徴的な変化はみられず,Apo E_4では死因間の差は認められなかった,各部位におけるApo Jの免疫染色陽性率に統計学的差は認められず,凍死で低下する傾向がみられた.研究下半期は,大脳頭頂部・海馬・中脳黒質および下垂体について,Apo B,Apo E_4およびApo JのmRNAの発現を死因別に比較検討した。Apo E_4のmRNAの発現量は,中脳において他の部位より多く,頭頂葉および海馬では火災,熱中症および凍死で高値,中脳では熱中症で高値を示した.下垂体では一酸化炭素中毒において高値を示した.Apo BのmRNAの発現量は,部位による差は認められず,頭頂部では凍死で高値,溺死で低値を示したが,中脳および海馬において死因間の差は認められなかった.下垂体では火災および中毒で高値を示した.Apo JのmRNAについては,下垂体において他の部位に比較して発現量の低下が認められた,死因別にみると,頭頂部および中脳では火災,中毒および頭部外傷で他群に比較して高値,下垂体では火災で高値を示した.海馬における死因間の差は認められなかった.以上の研究結果から,部位による発現の相違はあるものの,火災,熱中症や凍死などの異常温度環境下並びに薬物乱用者におけるApoの発現動態が明らかとなった.
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