研究概要 |
昨年度までに,重症度の異なるラット出血性ショックモデル(出血させないSham群ならびに全血液量の17.5,25および33%をいずれも20分間かけて出血させる計4群)を用いて,出血後の肺におけるTNF-αおよびIL-1βなどの炎症性サイトカインの発現量と肺の機能的障害の重症度とが関連していることを明らかにした。この結果を踏まえ,今年度は出血1,3および5時間後の各時点において肺を採取し,肺の器質的障害の程度を病理組織学的に,炎症性サイトカインによって活性化される好中球の発現頻度を免疫組織学的に観察して,出血性ショックの重症度との関連について検討を行った。 出血早期には肺の組織学的障害や好中球の優位な上昇を確認できなかった。出血5時間後には肺水腫や肺出血などの器質的障害および血管腔や肺実質内での好中球の優位な上昇を認め,さらに好中球の出現頻度は出血量が増加するにつれてより高度となり(Sham群:0.25±0.07個/250μm^2,17.5%群:2.21±0.9個/250μm^2,25%群:3.44±1.01個/250μm^2,33%群:5.07±1.93個/250μm^2),器質的肺障害のマーカーの一つである血清LDH-3濃度と好中球の出現頻度との間に正の相関関係(r=0.96)があった。この結果から,出血性ショックにおける肺の機能的・器質的障害の重症度と好中球の出現頻度との関連性を明確にすることができ,出血性ショック後の肺において好中球の免疫組織学的定量が肺障害の重症度判定・死因診断の有用なマーカーとなりうる可能性が明らかとなった
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