研究概要 |
昨年度に続き、過剰エネルギー摂取に起因するインスリン抵抗性に対する和漢薬(八味地黄丸、防己黄耆湯)の効果を検討する目的を推進した。近年の研究より脂肪組織は種々のアディポサイトカインを分泌する重要な内分泌臓器であり、その分泌異常がインスリン抵抗性の発現に関与していることが明らかにされている。このような背景から、本年度はリアルタイムPCR法を用いて、インスリン抵抗性の発現に関連する脂肪組織中の遺伝子解析を中心に検討した。 高脂肪食負荷ラットに和漢薬(八味地黄丸、防己黄耆湯)を3週間投与後、脂肪組織を採取し、アディポサイトカインについて遺伝子発現を検討した結果、八味地黄丸投与によりIL-6の発現が半分以下に減少し、アディポネクチンは1.3倍の発現上昇が認められた。また、脂質代謝・エネルギー代謝に関連する遺伝子(UCP-2,ACOX-1)並びに脂肪細胞分化に関連する遺伝子(C/EBPα,PPARγ)について検討した結果、八味地黄丸投与により増加傾向が見られた。防己黄耆湯投与群では、これらの遺伝子発現に対する変動は見られなかった。 これらの結果から八味地黄丸投与によりアディポサイトカインの遺伝子発現に変動が認められ、これらの変動が高脂肪食負荷によるインスリン抵抗性の発現に好影響を与え、抗糖尿病作用を発揮する可能性が示唆された。一方、防己黄耆湯は本モデルにおいては、有益な作用は認められなかった。また、これらの成果は過剰エネルギー摂取に起因する生活習慣病の予防を目標とした和漢薬の作用機序を解明するための科学的データの蓄積に貢献するものであると考えられる。
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