研究概要 |
ストレスによる交感神経-副腎髄質(SA)系の過剰な活性化は高血圧症、消化性潰瘍、免疫能低下による発癌等を引き起こす事から、本系の中枢性制御機構の解明はそれら疾病の予防と治療に不可欠である。 既に私達は、ストレス関連ペプチドのバソプレシン及びコルチコトロピン放出因子のラット脳室内による中枢性SA系賦活に、脳内ホスホリパーゼC(PLC)/ジアシルグリセロールリパーゼ(DGL)を介して産生された2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)がアラキドン酸(AA)前駆物質として促進性に関与する事を明らかにしてきた(Shimizu et al., 2004, 2008, 2010)。興味深い事に、この2-AGは脳内エンドカンナビノイド(eCB)(脳内大麻)である事が近年報告されている。本年度はストレス関連ペプチドのボンベシン(BB)脳室内投与による中枢性SA系賦活に対する脳内2-AGの役割を解析した。 BBによる中枢性SA系賦活は、JZL184[2-AGからのAA産生酵素、モノアシルグリセロールリパーゼ(MGL)に対する阻害薬]、ACEA(CB_1受容体刺激薬)及びAM404(CB取り込み阻害薬)の脳室内前処置により抑制された一方、AM251(CB_1受容体遮断薬)の脳室内前処置はBBの反応を増強した。 以上の成績及びBBによる中枢性SA系賦活に脳内PLC及びDGLが関与する事(Shimizu et al., 2005)から、(1)BBにより中枢性SA系が賦活された際、内因性に産生された脳内2-AGが飴前駆物質としてBBの反応に促進性に関与する一方、(2)2-AGが脳内CB_1受容体を介してBBの反応に対し抑制性にも関与する、という、脳内2-AGの二方向性の役割が明らかとなった。この成績から、ストレス関連疾患に対するMGL阻害薬、CB_1受容体刺激薬及びCB取り込み阻害薬の有用性が示唆される。
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