交感神経系は中枢ストレス応答の出力の1つであり、その持続的な亢進がストレス関連疾患を誘起する一因であると推測されている。これまでに、ストレス関連ペプチドであるコルチコトロピン放出因子(CRF)による中枢性交感神経系活性化機構について解析する過程で、脳内シクロオキシゲナーゼ(COX)および一酸化窒素合成酵素(NOS)が促進的に関与することを報告してきた。そこで本研究では、視床下部室傍核(PVN)の下行性交感神経線維細胞体におけるCOXおよびNOS発現が、ストレスによる交感神経系亢進に関与するか否かを明らかにすることを目的とした。本年度は、逆行性トレーサーにより下行性交感神経線維細胞体を標識したラットを用いて、COXおよびNOSアイソザイムの酵素阻害薬を投与した後、拘束ストレスを負荷した。拘束ストレス負荷後に血液および脳組織を採取した。高速液体クロマトグラフィーを用いて、血中ノルアドレナリンおよびアドレナリンを測定した。また、Fosに対する免疫染色を行い、トレーサー標識細胞でのFos共発現を計測した。その結果、(1)拘束ストレスによって増加した血中カテコールアミンレベルは、COX-1、COX-2および誘導型NOS(iNOS)のそれぞれの阻害薬によって抑制され、(2)拘束ストレスによって増加したPVN・下行性交感神経線維細胞体でのFos発現も同様に、COX-1、COX-2およびiNOS一方、神経型NOS(nNOS)阻害薬は、拘束ストレスによるカテコールアミンレベルおよびFos発現の増加に影響を与えなかった。以上の結果から、拘束ストレスによる交感神経系亢進にPVN・下行性交感神経線維細胞体のCOX-1、COX-2およびiNOSが関与する可能性が示唆された。
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