研究課題
ラット結腸輪走筋の自発収縮及び経璧神経刺激反応に対する桂枝加芍薬湯と半夏瀉心湯の効果を調べ、これら2種類の漢方薬が炎症性腸疾患における消化管運動機能障害に有効であるか否かを検討した。1.桂枝加芍薬湯桂枝加芍薬湯は用量依存的(0.1mg/ml~5mg/ml)にラット遠位結腸輪走筋における自発収縮の発生を抑制した。高用量の桂枝加芍薬湯(5mg/ml)存在下では自発収縮は消失した。桂枝加芍薬湯(1mg/ml)による自発収縮抑制効果は一酸化窒素合成酵素阻害剤(L-NA)で一部抑制された。また、桂枝加芍薬湯(5mg/ml)は経璧神経刺激によって発生するコリン作動性神経由来の収縮反応を部分的に抑制した。桂枝加芍薬湯による自発収縮の抑制効果は近位結腸輪走筋でも観察されたが、遠位結腸輪走筋における抑制効果に比べて弱いものであった。2.半夏瀉心湯半夏瀉心湯は用量依存的(0.1mg/ml~5mg/ml)にラット遠位結腸輪走筋における自発収縮の発生を抑制した。半夏瀉心湯(1mg/ml及び5mg/ml)は自発収縮を消失させた。半夏瀉心湯(1mg/ml)による自発収縮抑制効果はL-NAで一部抑制された。また、半夏瀉心湯(5mg/ml)は経璧神経刺激によって発生するコリン作動性神経由来の収縮反応を非常に強く抑制した。半夏瀉心湯による自発収縮の抑制効果は近位結腸輪走筋でも観察されたが、遠位結腸輪走筋における抑制効果に比べて弱いものであった。以上の結果から、桂枝加芍薬湯と半夏瀉心湯は下痢などの消化管運動機能が異常に亢進している症状に有効である可能性が示唆された。特に半夏瀉心湯はコリン作動性神経由来の収縮反応を非常に強く抑制することから、潰瘍性大腸炎やクローン病における激しい下痢に有効であると思われる。一方、桂枝加芍薬湯のコリン作動性神経由来収縮反応に対する抑制効果は、半夏瀉心湯の抑制効果に比べると非常に弱いものであった。桂枝加芍薬湯が便秘と下痢を繰り返す過敏性腸症候群に有効であるのは、このように興奮性神経の機能をある程度温存できるからなのかもしれない。
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American Journal of Physiology-Gastrointestinal and Liver Physiology
巻: Vol.298 ページ: G755-G763