脳血管性認知症は、アルツハイマー型認知症とならぶ老年性認知症の二大原因の一つであるが、原因や症状が多岐にわたるため、その発症機序の解析はあまり行われていない。本課題では、家族性脳血管性認知症(CADASIL)型の変異Notch3を発現するマウス(KI)を用いて、変異遺伝子と環境要因の相互作用による疾患発症促進という新たな視点から、脳血管性認知症の予防・治療に応用可能な情報を得ることを目的とする。 抗Notch3抗体を作製し、イムノブロット法により、CADASIL患者同様Notch3蛋白の蓄積がKI脳にみられるか調べた。その結果、Notch3蛋白は野生型(WT)、KIともに発達に伴って減少したが、その量はKIで常にWTよりも多く、2年齢ではKIでのみ検出された。マイクロアレイ解析の結果、Notch3のmRNA発現量には変化がみられなかったことから、KIマウスではNotch3蛋白の分解が抑制され、血管に蓄積する可能性が示された(日本認知症学会発表)。組織学的解析では、2年齢のKI脳において、α-アクチン染色性の低下やコラーゲンIV分子の増加といったCADASIL様病理像が観察されたが、WTと比較してあまり劇的な変化はみられなかった。現在、CADASIL様の症状が環境要因によって若年から誘導・促進されるか検証するため、6ヶ月齢のKIとWTマウスに慢性不連続性拘束ストレス(Kunimoto et al. 2010)を負荷し、同様の解析を行っている。今後、質量分析装置を用いて発現タンパク質の網羅的な比較解析を行い、上記の結果とあわせ、CADASIL発症過程に関わる新規候補分子の探索を行う。CADASIL様の特徴を若年から呈する動物モデルを構築し、その経年変化を詳細に調べることで、CADASILの発症機序、およびストレスが脳血管性認知症発症に及ぼす影響を解明する。
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