研究課題
近年、アミノ酸はただ単に細胞骨格や様々な代謝経路の基質となるだけでなく、細胞機能を調節する事が解明されつつある。私はこれまで細胞外の遊離アミノ酸が免疫機構の中心である樹状細胞(DC)に与える影響を研究し、DCの成熟化が細胞外のBCAA濃度、特にL-valine濃度により影響を受けることを報告した。(The Journal of Immunology, 2007, 179 : 7137-7146.)。今回、非代償性肝硬変で出現するアミノ酸不均衡がDCに与える影響を解析することを目的とした。本年度の研究成果として、健常人と非代償性肝硬変患者の末梢血アミノ酸濃度と一致した無血清培地をそれぞれ作製することが可能となった。この2種類の培地下でDCを刺激し機能を解析した。まず、健常人と非代償性肝硬変患者から採取したDCの成熟化を同培地下で比較すると患者DCの成熟化が抑制されていた。更に健常人・非代償性患者いずれから採取したDCも非代償性肝硬変の血漿中のアミノ酸濃度下では樹状細胞の成熟化・IL-12産生が低下する事、さらにこのことにより末梢血単核球からのIFN-γの産生が低下することが明らかとなった。これらの現象に伴い非代償性肝硬変の培地下ではDC成熟化の際にmTORの下流に存在するS6のリン酸化が抑制されていた。以上より当研究において非代償性肝硬変ではDC自体の成熟化が低下しているだけでなく、周囲のアミノ酸不均衡がDCの成熟化をmTORを介して抑制することが明らかとなった。(Hepatology 2009 ; 50 : 1936-1945.)これらの結果から、肝硬変患者に出現するアミノ酸不均衡を補正することで、低下した樹状細胞機能を改善しうる可能性が示唆された。
すべて 2009
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Hepatology 50
ページ: 1936-1945
肝・胆・膵 58
ページ: 247-254
薬理と治療 37
ページ: 93-96
消化器科 49
ページ: 190-196