研究概要 |
【目的】昨年度までの研究において、樹状細胞(DC)の成熟化が細胞外の分岐鎖アミノ酸(BCAA)濃度、特にL-Valine濃度により影響を受けること(The Journal of Immunology 2007;179)、非代償性肝硬変ではDC自体の成熟化が低下しているだけでなく、周囲のアミノ酸不均衡がDCの成熟化をmTORを介して抑制することが明らかにした(Hepatology 2009;50)。更に研究過程において、非代償性肝硬変患者の血漿アミノ酸濃度に一致した無血清培地(ACM)を開発した。しかし、進行した肝硬変ではBCAAだけでなく他のアミノ酸も不均衡をきたしておりそれらが免疫機構に与える影響は定かではない。基礎検討において血漿中のL-Cystine(L-Cys)が末梢血中の単球数とTNF-alphaに相関関係を有しており、他の報告では抗原提示細胞はLPS刺激の際にL-CysとL-Glutamate(L-Glu)の交換輸送を行い他のT-cell活性化を調節すると報告されている。当該年度では進行した肝硬変患者の出現するL-Cys/L-Glu不均衡がCD14+単球に与える影響をACMを用いて検討することとした。【結果】ACM中のL-Cysは濃度依存性にLPS刺激に対する単球からのTNF-alpha,IL-10の産生を増加させた。LPS刺激後の単球は強くL-Cys/L-Glu交換輸送体、xCTを発現した。単球、THP-1の細胞内・外のアミノ酸濃度を測定すると、L-Cys添加ACMでは非添加ACMと比較して有意に細胞内L-Cys,細胞外L-Gluの増加を認めた。更に過剰なL-Gluを添加によりアミノ酸の移動は抑制された。単球除去PBMC,T-cell系細胞株(Jurkat, Molt-4)ではこのようなアミノ酸の増減は認めなかった。単球細胞内の還元型・酸化型グルタチオン比はL-Cys添加ACM下で低下した。 【結論】非代償性肝硬変患者において血漿中のL-Cysの増加とL-Gluの低下はxCTを介して単球内に酸化ストレスを与え、TNF-alphaをはじめとした炎症性サイトカイン産生を増加させた。以上の結果は肝硬変非代償期の免疫異常に関与している可能性がある。
|